大学進学に伴う税金控除を知る:扶養控除と関連制度の活用法
はじめに:教育資金計画と税金知識の重要性
お子様が高校生になり、大学進学が現実味を帯びてくると、多くのご家庭で教育資金に関する不安が大きくなるかと存じます。学費そのものだけでなく、受験費用、入学準備費用、一人暮らしの費用など、見通しの立てにくい支出が多く発生します。これらの費用に備えるための貯蓄計画や奨学金・教育ローンの検討は、教育資金計画の重要な柱となります。
一方で、教育資金計画を進める上で、見過ごされがちな視点があります。それは、大学進学によって変化する税金について理解し、適切な控除を活用することで、手取り額を増やしたり、家計全体の負担を軽減したりするというアプローチです。特に、所得税や住民税に関わる扶養控除の変更は、家計に少なからぬ影響を与えます。
この記事では、大学進学に伴って変わる可能性のある税金控除の仕組み、特に扶養控除に焦点を当てて解説します。また、教育資金準備と関連するその他の税金控除や制度についても触れ、教育資金計画をより多角的に、そして効率的に進めるための情報を提供いたします。
大学進学で変わる可能性のある税金:扶養控除のポイント
お子様が大学に進学し、特定の年齢に達すると、親御様の所得税や住民税の計算に関わる「扶養親族」の区分が変わります。これが「扶養控除」の金額に影響を与え、結果として手取り額が変動する要因となります。
日本の税制における扶養親族は、年齢によって控除額が異なります。16歳以上のお子様は扶養親族として扱われ、一定の所得控除を受けることができます。そして、その中でも特に重要なのが「特定扶養親族」という区分です。
- 特定扶養親族: 12月31日現在の年齢が19歳以上23歳未満のお子様が該当します。この年齢層は、大学などでの教育費用が多くかかる時期であることから、一般の扶養親族よりも控除額が手厚く設定されています。
- 控除額:
- 所得税の場合:特定扶養親族一人あたり 63万円
- 住民税の場合:特定扶養親族一人あたり 45万円 (2023年現在の税法に基づきます。今後の税制改正にご注意ください。)
お子様が19歳になる年の1月1日から23歳になる年の12月31日までの期間は、この特定扶養親族に該当し、親御様の税負担軽減に大きく寄与する可能性があります。例えば、お子様が高校卒業後、すぐに大学に進学する場合、多くのお子様が大学在学中にこの特定扶養親族の期間を過ごすことになります。
ただし、お子様自身の所得が一定額(年間48万円、給与収入のみの場合は103万円)を超える場合は、税法上の扶養親族とはなれませんので注意が必要です。大学生活でアルバイトをするお子様がいる場合は、年間所得を確認しておくことが大切です。
この特定扶養親族に関する控除額を事前に把握しておくことで、大学進学後の家計収支の見込みをより正確に立てることが可能になります。
教育資金準備と関連するその他の税金控除・制度
教育資金の準備や支払いに間接的・直接的に関連する可能性のある税金控除や制度は、扶養控除だけではありません。いくつか例を挙げます。
-
生命保険料控除: 学資保険に加入している場合、支払った保険料は生命保険料控除の対象となります。一般生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料の区分があり、それぞれの年間支払保険料に応じて一定額が所得から控除されます。学資保険は一般生命保険料に該当することが多いです。控除額は所得税・住民税それぞれ上限が定められています。保険料控除を活用することで、毎年の税負担を軽減し、その分を教育資金に回すことも考えられます。
-
iDeCo(個人型確定拠出年金)やNISA(少額投資非課税制度): これらは直接的に教育資金を目的とした制度ではありませんが、老後資金やその他のライフプラン資金形成のための非課税制度です。iDeCoは掛金が全額所得控除の対象となるため、税負担を軽減しながら将来資金を準備できます。NISAも運用益が非課税となります。教育資金と並行してこれらの制度を利用することで、家計全体の資金効率を高めることにつながります。ただし、iDeCoは原則60歳まで引き出せないなど、それぞれの制度には特徴と制約があります。教育資金が必要になる時期とのバランスを考慮して活用を検討することが重要です。
-
教育資金贈与信託: 祖父母などから教育資金の贈与を受ける際に利用できる制度です。一定の要件を満たすことで、受贈者一人あたり1,500万円までが非課税となります。まとまった資金援助を検討する場合には有効な選択肢の一つとなり得ます。ただし、対象となる教育費の範囲や管理方法に制限がありますので、詳細は金融機関などに確認が必要です。
これらの税金控除や制度は、単独で見ると教育資金計画と直接関係ないように見えるものもありますが、家計全体の税負担軽減や効率的な資産形成という観点から、教育資金準備と合わせて検討する価値があります。
税金控除を受けるための手続き
税金控除を受けるためには、原則として「年末調整」または「確定申告」の手続きが必要です。
-
年末調整: 会社員の場合、多くは勤務先が行う年末調整で税金控除の手続きが完了します。生命保険料控除やiDeCoの掛金に関する控除などは、年末調整に必要な書類(生命保険料控除証明書やiDeCoの掛金払込証明書など)を勤務先に提出することで手続きできます。扶養親族に関する情報は、多くの場合、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」であらかじめ申告しています。
-
確定申告: 年間の所得に対して納める税金を自分で計算し、税務署に申告・納税する手続きです。年末調整では控除できない項目がある場合や、年末調整を忘れてしまった場合などに行います。例えば、多額の医療費がかかった場合の医療費控除を受けるためには、確定申告が必要です。また、特定扶養親族の申告を年末調整で忘れた場合も、確定申告または後日、税務署に更正の請求を行うことで控除を受けることができます。
お子様が特定扶養親族に該当する年の年末調整や確定申告では、忘れずに控除を申告することが大切です。不明な点があれば、勤務先の経理担当者や税務署、税理士に相談することをお勧めします。
まとめ:税金知識を教育資金計画に活かす
大学進学は、教育費用の大きな負担を伴うだけでなく、ご家庭の税金にも影響を与えるライフイベントです。特に、お子様が特定扶養親族に該当する期間は、所得税・住民税の負担が軽減される可能性があります。
これらの税金に関する知識を身につけ、扶養控除や生命保険料控除などを適切に活用することは、教育資金計画をより効率的に進める上で非常に有効です。手取り額が増えることで、その分を教育資金に充当したり、他の家計の余裕資金としたりすることが可能になります。
教育資金計画は、貯蓄、節約、奨学金・教育ローンといった「支出」や「借り入れ」の視点だけでなく、手取り額を増やすという「収入」の視点からも考えることが大切です。今回ご紹介した税金控除の情報を参考に、ご家庭の教育資金計画に役立てていただければ幸いです。常に最新の税法や制度情報を確認しながら、計画を進めることをお勧めいたします。