教育資金計画に必須 奨学金返済の負担を理解し対策を立てる
大学進学を控えた今、考えるべき奨学金と返済負担
お子様が高校生になり、大学進学が現実味を帯びてくるにつれて、教育費に関する不安は一層大きくなるものです。特に、私立大学への進学や自宅から離れての一人暮らしを伴う場合、その費用は数百万円から1千万円を超えることもあります。このような多額の教育費用を前に、奨学金の利用を検討されるご家庭は多いでしょう。
奨学金は、経済的な理由で進学が困難な学生を支援するための非常に有用な制度です。しかし、多くの奨学金、特に貸与型奨学金には返済義務が伴います。この「返済」という側面について、借りる前に十分な理解と計画をしておくことが、将来的な家計の安定にとって非常に重要となります。
本記事では、教育資金計画の一環として奨学金の利用を検討するにあたり、借りる前に知っておくべき返済の仕組み、想定される負担、そしてその負担を軽減するための対策について詳しく解説します。
奨学金の種類と返済義務の有無
まず、奨学金にはいくつかの種類があり、それぞれに返済義務の有無や条件が異なります。代表的なものとして、日本学生支援機構(JASSO)の奨学金があります。
- 給付型奨学金: 原則として返済の必要がない奨学金です。主に住民税非課税世帯やそれに準ずる世帯の学生が対象となる「高等教育の修学支援新制度」の一部として位置づけられています。
- 貸与型奨学金: 学生本人が借り入れ、卒業後に返済する義務が生じる奨学金です。
- 第一種奨学金: 利子がつかない(無利子)タイプです。学力基準と家計基準が比較的厳しく設定されています。
- 第二種奨学金: 利子がつく(有利子)タイプです。第一種よりも基準が緩和されており、借りやすい傾向にあります。
大学進学費用の準備として検討されるのは、この貸与型奨学金が多いかと思います。特に第二種奨学金は多くの方が利用していますが、利子が付くこと、そして長期にわたる返済が必要になることを十分に認識しておく必要があります。
奨学金返済の仕組みを理解する
貸与型奨学金を利用する場合、お子様が卒業した後に学生本人が返済していくことになります。しかし、その返済計画には親としてもしっかり関与し、理解しておくことが大切です。
返済はいつから始まるのか?
奨学金の返済は、卒業後一定期間(多くの場合、卒業した年の10月)経過後に開始されます。例えば、2025年3月に大学を卒業した場合、返済は2025年10月から始まる、といったスケジュールになります。
返済期間と月々の返済額
返済期間は、借り入れた総額によって異なります。借入額が多いほど返済期間は長くなります。例えば、日本学生支援機構の第二種奨学金の場合、借入総額が300万円であれば返済期間は20年、月々の返済額は約1.3万円(利率0.5%固定、月賦返還の場合)程度となるシミュレーションがあります。これが500万円になれば、返済期間は20年で月々約2.1万円、または返済期間25年で月々約1.7万円といった金額になります。
返済方法
返済方法は主に「月賦返還」と「月賦・半年賦併用返還」があります。多くの場合は月賦返還を選択します。返済は口座からの自動引き落としが基本となります。
金利タイプ(第二種奨学金)
第二種奨学金には金利がつきますが、その金利には「固定方式」と「変動方式」があります。 * 固定方式: 貸与期間を通じて金利が一定です。市場金利の変動に左右されないため、将来の返済額が確定している安心感があります。 * 変動方式: 半年ごとに金利が見直されます。市場金利が低下すれば返済額が減る可能性がありますが、上昇すれば増えるリスクもあります。
どちらの方式を選択するかは、将来の金利動向予測やリスク許容度によって判断が分かれます。
借りる前に知っておくべき返済リスク
奨学金は学費の大きな助けになりますが、返済が始まる卒業後に、学生本人が経済的に困難な状況に直面するリスクも考慮しておく必要があります。
卒業後の収入と返済額のバランス
大学卒業後すぐに安定した収入が得られるとは限りません。就職活動の状況、初任給の水準、勤務先の経営状況など、不確定要素が多くあります。想定していた収入が得られなかった場合、毎月の返済が家計を圧迫する可能性があります。
延滞によるリスク
返済期日までに返済できない「延滞」は、様々なリスクを伴います。 * 遅延金: 返済期日を過ぎると、通常の返済額に加えて遅延金(延滞金)が発生します。 * 個人信用情報機関への登録: 延滞が続くと、個人信用情報機関にその事実が登録されます。これにより、将来、クレジットカードの作成や住宅ローン、自動車ローンなどの借り入れが困難になる場合があります。 * 督促・法的措置: 度重なる督促にも応じない場合、奨学金の種類によっては法的措置(支払督促や裁判)が取られる可能性もあります。
将来のライフイベントへの影響
奨学金の返済は、多くの場合10年〜20年といった長期にわたります。これは、就職、結婚、出産・育児、住宅購入など、人生の大きなライフイベントと重なる期間です。奨学金の返済負担が大きいと、これらのライフイベントに向けた貯蓄や資金計画に影響が出る可能性も考慮しておく必要があります。
連帯保証人・保証制度の役割
貸与型奨学金を借りる際には、「人的保証」または「機関保証」のどちらかの保証制度を利用する必要があります。 * 人的保証: 父母などに連帯保証人になってもらい、伯父伯母などに保証人になってもらう制度です。学生本人が返済できなくなった場合、連帯保証人や保証人に返済義務が生じます。親が連帯保証人になるケースが多いため、お子様が返済できなくなった際のリスクは親が負うことになります。 * 機関保証: 保証機関に保証料を支払い、連帯保証人・保証人を立てる必要がなくなる制度です。学生本人が返済できなくなった場合、保証機関が代わりに返済しますが、その後、保証機関から学生本人に請求が行われます。保証料は毎月の奨学金から差し引かれます。人的保証のリスクを避けたい場合に選択されますが、その分、将来の返済総額は増加します。
親が人的保証になる場合、お子様の返済状況を把握しておき、いざという時の備えも考える必要があります。
返済負担を軽減するための対策
返済リスクを理解した上で、その負担を軽減するために、借りる前と借りた後にそれぞれ講じられる対策があります。
借りる際の検討事項
- 借入額を最小限に抑える: 本当に必要な金額だけを借りるように努めることが最も重要です。学費全額ではなく、他の資金(貯蓄、給付型奨学金、国の教育ローン、大学独自の支援など)で賄える部分を差し引いた、不足分のみを借りるように計画します。
- 第一種奨学金の優先検討: 条件を満たすのであれば、利子のつかない第一種奨学金を優先的に検討します。
- 自宅通学か一人暮らしか: 自宅から通学できる大学を選択できる場合、一人暮らしにかかる費用(家賃、食費、光熱費など)を大幅に抑えることができ、結果として奨学金の借入額を減らせる可能性があります。
- 他の資金調達方法との比較検討: 奨学金だけでなく、親が借りる国の教育ローンや民間の教育ローン、大学独自の奨学金・特待生制度など、様々な資金調達方法を比較検討し、家計全体にとって最も負担が少ない方法を選択します。国の教育ローンは在学中に利息のみの返済とすることも可能など、奨学金とは異なる特徴があります。
返済中の対策
- 繰り上げ返済の検討: 資金に余裕ができた場合は、一部または全額を繰り上げて返済することができます。特に有利子の第二種奨学金の場合、繰り上げ返済をすることで、将来支払う利息の総額を減らすことができるため、返済負担軽減に非常に有効です。
- 返還期限猶予制度: 災害、傷病、経済困難、失業などの事情により、一時的に返済が困難になった場合に、返済を待ってもらうことができる制度です。ただし、この制度を利用しても返済額自体が減るわけではなく、返済期間が後ろ倒しになる点に注意が必要です。
- 減額返還制度: 収入が基準額以下になった場合など、毎月の返済額を減らすことができる制度です。減額された期間に応じて返済期間は延長されます。
- 所得連動返還方式(有利子奨学金の一部): 卒業後の所得に応じて毎月の返還額が決まる方式です。所得が低い時期は返還額が少なく済み、安定した所得が得られるようになれば返還額が増加します。これにより、卒業直後の経済的負担を軽減できる可能性があります。
これらの制度は、状況に応じて適切に利用することで、延滞リスクを避け、返済を継続するための助けとなります。利用条件や申請方法については、日本学生支援機構のウェブサイトなどで確認することが重要です。
教育資金計画における奨学金の適切な位置づけ
奨学金は、不足する教育資金を補うための有力な選択肢の一つですが、あくまで「借り入れ」であり、将来の返済義務を伴います。教育資金計画を立てる際には、奨学金を主たる資金源とするのではなく、これまでの貯蓄や家計の見直しによる捻出、国の教育ローンや大学独自の支援制度など、他の資金調達方法とバランスを取りながら、総合的に検討することが望ましいでしょう。
特に、親御様自身の老後資金計画とのバランスも非常に重要です。お子様の教育費に資金を集中させすぎた結果、ご自身の老後資金が不足してしまう、という事態は避ける必要があります。奨学金の返済はお子様本人が行うことになりますが、お子様の経済状況によっては親が援助せざるを得ない状況も起こり得ます。そのため、無理のない範囲での借入額を設定し、返済計画まで含めて親子で十分に話し合うことが大切です。
まとめ
大学進学費用への不安は大きいものですが、奨学金制度を正しく理解し、返済負担を考慮した計画を立てることで、その不安を軽減することが可能です。
貸与型奨学金は返済義務を伴い、その返済は長期にわたる可能性があります。借りる前に返済の仕組みや将来のリスクを十分に理解し、借入額を最小限に抑える工夫をすることが重要です。また、返済が始まった後も、収入に応じた返済計画の見直しや、困難時の支援制度の活用など、利用できる対策があることを知っておくことで、安心して返済を進めることができるでしょう。
教育資金計画の中に奨学金の利用を組み込む際は、これらの点を踏まえ、ご家庭全体のライフプランと合わせて慎重に検討されることをお勧めします。正確な情報や最新の制度については、日本学生支援機構や金融機関のウェブサイトなどを必ずご確認ください。